Hiroyuki Takeyama

こんにちは、竹山宏之です。

リコーダーの製作は基本的にすべて「木」を相手にした仕事です。リコーダーの製作にかかわって35年以上がたちましたが、「木」の職人としての想いや皆さんに知っていただきたいことについて、書こうと思います。

竹山木管楽器製作所は、昔、紡績機械に使う「ボビン」を製作していました。これとリコーダーとの関連は考えにくいと思いますが、木工職人の目から見れば、どちらも「穴のあいた回転対称の細長い木工製品」です。実はこのような加工は日本古来の技術(「ろくろ」という)を使った仕事です。この業界で「木管」と言うのは「木管楽器」ではなく「ろくろ技術を使った木工製品一般」を指していたようです。
竹山ではボビンの製作に使用する刃物も自前で作っており、この技術のお陰でリコーダー製作に欠かせないリーマや特殊なバイトの開発が可能になりました。

リコーダーの製作に欠かせない技術の1つにヴォイシングがあります。これには定まった技術などなく、先達の意見を聞いたり、古楽器などを手本にして、何度も試行し、自分流のやり方を身につけるしか方法がありません。
同じ形の楽器でも、材料の個性や管とブロックとの関係などによって、ヴォイシングのやりかたは皆異なったものになります。音を聞きながら調整し仕上げていくのですが、気に入った音に仕上がるのに何日もかかることがあります。

ヴォイシングとは、1本1本のリコーダーが最も良い状態で鳴ることを目指すものですから、完成したリコーダーは個性をもちます。製作者から見れば、完成したリコーダーはどれが良い音でどれが悪い音かという判定はできません。皆手塩にかけた子供のようなものです。私の楽器を選んでいただくときには、ぜひ試奏し音を確認していただきたいと思います。また、楽器を使用されるときは、常に最良のコンディションとなるようメンテナンスを行っていただきたいと願っています。

本来、職人にとっては出来上がった「もの」がすべてで、苦労話や創意工夫の自慢などは苦手です。あえてここで皆さんにお話したいと考えたのは、リコーダーと言うヨーロッパの楽器を製作する工程の中に、日本古来の技術が生かされていることを知ってもらいたかったことと、製作工程での苦心とメンテナンスの方法に共通点があり、工程を知っていただくことにより、よりよい状態で楽器を使用していただけるのではないかと考えたからです。

この記事の執筆にあたりましては、多方面の方々からのご協力をいただきました。